大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

横浜地方裁判所 昭和60年(ワ)1951号 判決

原告

山崎不動産こと

山崎秀夫

右訴訟代理人弁護士

保良公晃

被告

第一建設株式会社

右代表者代表取締役

横沢正治

右訴訟代理人弁護士

田辺尚

主文

一  原告の請求を棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一  申立

一  請求の趣旨

1  被告は原告に対し、金三五四五万八二九〇円及びこれに対する昭和六〇年八月一六日から支払い済みに至るまで年六分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

3  仮執行宣言

二  請求の趣旨に対する答弁

主文同旨

第二  主張

一  請求の原因

1  原告は、宅地建物取引業法(以下「宅建業法」という。)に基づき神奈川県知事の免許を受け、「山崎不動産」の名称で宅地建物取引業を営む者である。即ち、原告は、昭和四二年原告を代表者と定めて山崎不動産の名称で神奈川県知事より宅地建物取引業の免許を受け営業していたものであるが、昭和五六年一一月二五日、原告の子秀一を代表者として同一名称により免許を受け、一時同人と共同で営業していたが、その後は原告が一人で右名称により営業を続けて現在に至っているもので、山崎不動産の営業の主体は原告である。

被告は、土木建築請負及び不動産の売買、仲介等を業とする会社である。

2  原告は、昭和五七年一〇月二二日、被告から横浜市瀬谷区目黒町一二番三ほか二五筆合計四一五四・四二坪(土地所有者計一二名)の土地の買入れの仲介を依頼され、これを承諾した。

3  原告が右土地について土地所有者(以下「地主」という。)との間で売買の斡旋をした結果、昭和五九年八月、同所一一番一〇ほか一〇筆合計四八六五・三五五平方メートル(地主岩崎肇ほか五名、以下「本件(一)の土地」という。)について、坪当り三五万円の売買代金で被告との間に売買契約が成立した。

4(一)  そして、更に原告が売買の斡旋をした結果、昭和五八年一二月、その余の別紙物件目録記載1ないし15の土地合計八六七二・八五平方メートル(地主高橋半十郎ほか五名、以下「本件(二)の土地」という。)について、坪当り三五万円の売買代金で売買することについて合意に達した。

(二)  次いで、本件(二)の土地の売買について国土利用計画法(以下「国土法」という。)に基づき横浜市長を経由して神奈川県知事に対し許可の申請を行い、昭和五九年二月右許可を得たが、被告の代金支払いが遅れたため、地主らは当初の合意による代金額に不服を唱え、代金の増額を要求して契約の締結に応じなくなった。

(三)  そこで、原告は、被告に対し代金の上乗せを検討するように求めるとともに、地主らに対しては当初の合意を順守するように説得を重ねたところ、当初被告が代金の増額を認めなかったため交渉は難航したが、被告が代金の増額を提示し、原告が被告と協力して契約の締結に努力した結果、昭和六〇年三月二五日、被告と右地主らとの間に、本件(二)の土地について坪当り四五万円の売買代金で売買契約が成立した。売買代金は別紙物件目録売買代金欄記載のとおり合計一一億八一九四万三〇〇〇円である。

5  被告は原告に対し、原告の仲介により売買契約が成立した場合、報酬として、昭和四五年建設省告示第一五五二号第一所定の、売買代金額の百分の三相当額を支払うことを約した。

仮に、原告が宅建業法に基づく免許を受けていないとしても、被告は原告に対し本件(一)(二)の土地の買収交渉を委任し、原告はこれを受任した。右委任に際し、被告は右買収交渉により売買契約が成立した場合、原告に対し前記報酬を支払うことを約した。

原告は、被告から、本件(一)の土地の売買の仲介に対する報酬として、坪当たり三〇万円の売買代金額の百分の三に相当する一二七二万五〇〇〇円の支払を受けた。

本件(二)の土地の売買代金額は、合計一一億八一九四万三〇〇〇円であるから、被告の支払うべき報酬額は三五四五万八二九〇円である。

6  仮に、原告が国土法による許可の後、昭和五九年三月以降本件土地の売買交渉に関与せず、最終的な契約の締結に関与していないとしても、このことは、被告が意図的に原告を排除し原告と協議することなく直接地主らに対し代金の増額を提示し交渉したからである。

原告は前記報酬約定に基づき被告に対し報酬を請求し得る期待権を有していたところ、被告は、原告を排除して売買契約を成立させ、故意に右条件の成就を妨げたのであるから、民法一三〇条に従い、原告の仲介行為により売買契約が成立したものとみなして、原告に対し前記報酬を支払う義務がある。

7  よって、原告は被告に対し、報酬として、三五四五万八二九〇円及びこれに対する本訴状送達の日の翌日である昭和六〇年八月一六日から支払い済みに至るまで商事法定利率年六分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二  請求原因に対する認否

1  請求原因1項前段は否認する。原告は宅建業法による免許を受けていない。後段は認めた。

2  同2項及び3項は認める。

3  同4項(一)は否認する。

同項(二)のうち、本件(二)の土地の売買について国土法に基づく許可申請をし、右許可を得たことは認め、その余は否認する。地主らは、同法に基づく許可申請をすることには異議を述べなかったが、右許可申請の時点で売買契約が成立していたのではない。

同項(三)のうち、原告が被告に対し売買代金の上乗せを求めたこと、原告主張の契約が成立したことは認める。本件(二)の土地の売買契約の成立が原告の仲介によるとの点は否認する。右契約の成立は、すべて被告の努力によるものであって、原告は昭和五九年三月頃からは地主らの信頼を失い、交渉を拒否されていたので契約の成立に全く寄与していない。

4  同5項のうち、被告が原告に対し本件(一)の土地の仲介の報酬として一二七二万五〇〇〇円を支払ったこと、本件(二)の土地の売買代金額が一一億八一九四万三〇〇〇円であることは認め、その余は否認する。仮に、本件(二)の土地の売買契約の成立が原告の仲介によるものであるとしても、原告は当時宅建業法による免許を受けていないから、報酬を請求することは同法に違反し、許されない。

5  同6項は否認する。

6  同7項は争う。

第三  証拠関係〈省略〉

理由

一請求原因1項について

1  〈証拠〉によると、原告は、昭和四二年一月一六日、「山崎不動産」の名称で宅建業法に基づく神奈川県知事の免許を受け(免許番号(1)第二八八五号)、同四五年一月一六日及び同四八年一月一六日に右免許を更新したが、同五一年一月一五日有効期間が満了し右免許は失効したこと、その後、昭和五六年一一月二五日、山崎秀一が同一名称で同法に基づく免許を受け(免許番号(1)第一二四八一号)、同五九年一一月二五日右免許を更新していることが認められる。

右事実によると、原告は、本件(一)(二)の土地の売買の仲介をした当時宅建業法に基づく免許を受けていないことが認められる。

2  原告は、山崎不動産は原告の息子である秀一を代表者として免許を受けているが、原告がいわゆるオーナーであり、営業の主体は原告であると主張するが、名称及び事務所の所在地を同じくし、原告が事実上営業行為をしているとしても、免許番号、代表者を異にしている以上、同法一三条1項の趣旨に照らしても、原告が免許を受けた主体であるということはできない。

二請求原因2項(仲介契約の成立)及び3項(本件(一)の土地の売買契約の成立)の事実については、当事者間に争いがない。

三請求原因4項(本件(二)の土地の売買契約の成立)について

〈証拠〉を総合すると、次ぎの事実が認められる。

1  原告は、被告の依頼により本件(一)及び(二)の土地の買い入れについて同時に地主らとの交渉を進め、前記のとおり、昭和五九年八月本件(一)の土地について売買契約を成立させ、他方、同五八年一二月本件(二)の土地について地主らとの間に坪当たり三五万円で売買するとの一応の合意を得、右合意に従い、国土法に基づく許可申請をするとともに、各地主に対し売買代金額の一割相当額の手付金を支払い、同五九年二月右許可を得た(国土法による右許可を得たことは当事者間に争いがない。)。

2  ところが、本件(一)の土地について、当初坪当たり三〇万円で合意しながら、その後五万円増額して結局坪当たり三五万円で契約が締結されたことを聞知した本件(二)の土地の地主らは売買代金の増額を要求して契約の締結に難色を示し、昭和五九年一〇月頃被告が本件(二)の土地の引き渡しを求めたが、これに応じなかった。

3  原告が被告に対し売買代金の上乗せを検討するように提案したことは当事者間に争いがなく、原告は、国土法による許可を得た後も被告の不動産部長山田美夫と協力し原告なりに契約の締結のために努力したが、原告が昭和五九年一月頃売主である青木喜衛に無断で同人所有の売買目的土地について農地転用許可申請手続をしたことなどから、本件(二)の土地の地主ら、特に長老であり右土地の売買についてリーダー的存在である高橋半十郎の信頼を失い、同人らから売買交渉を拒否されるに至り、以後交渉は進展しなくなった。

4  そのため、その後は前記山田が主として直接地主らと交渉し、被告も地主らの要求に応じて売買代金を坪当たり四五万円に増額した結果、昭和六〇年三月二五日売買契約が締結されるに至った(右同日、右代金額で売買契約が締結されたことは当事者間に争いがない。)。従って、原告は、本件(二)の土地の売買契約について、最終的価格の合意には関与しておらず、契約書の調印にも立ち会っていない。

右事実によると、原告は、本件(二)の土地の売買契約の成立に関し、当初から昭和五九年二月頃までは直接地主らと交渉して仲介を行い、契約の成立に相当程度寄与したことが認められる。

四請求原因5項及び6項(原告の報酬請求権)について

1  上記事実に基づいて原告の報酬請求権について検討する。

原告は、被告が報酬として売買代金の百分の三を支払うことを約した旨主張するが、右事実を認めるに足りる証拠はない。しかし、本件(一)の土地の売買契約が成立した際、被告が原告に対し報酬として、一二七二万五〇〇〇円(売買代金を坪当たり三〇万円としてその百分の三に相当する金額)を支払ったことは当事者間に争いがなく、右事実に加え、〈証拠〉によると、被告が原告に対し本件(一)、(二)の土地の買入れの仲介を依頼した際、報酬について明確な約定はなかったものの、原告の仲介により売買契約が成立したときは昭和四五年建設省告示第一五五二号第一を基準として相当額の報酬を支払う旨の黙示の合意が成立したことを認めることができる。

2 ところで、前記のとおり原告は宅建業法に基づく免許を受けていないので、右合意に基づく報酬を請求し得るか否かが問題となる。

宅建業法によると、同法による免許を受けないで宅地建物取引業を営むことは禁止されており(同法一二条1項)、これに違反した場合には刑罰を課せられる旨定められているが(同法七九条)、無免許業者が宅地建物取引業を営むことに対して刑罰の制裁があることと、無免許業者との仲介契約或いは右仲介により成立した契約の効力の有無とは別個の問題であるから、無免許業者との仲介契約も実体法上有効と解するのが相当であり、従って、無免許業者も仲介契約に基づいて報酬請求権を有するものというべきである。

しかしながら、右報酬請求権の裁判上の行使を認めるべきか否かについては、国が一方において無免許営業を刑罰をもって禁止しながら、他方において無免許営業による利益の確保に力を貸すことは矛盾であり、相当でないというべきであるから、仲介契約の当事者が裁判外において報酬を授受する場合はともかく、無免許業者がその報酬請求権を裁判上行使することは許されないと解するのが相当である。

五以上の次第で、原告の本訴請求は結局理由がないから棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官蘒原 孟)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例